今回の弊社Grant Thornton Vietnamのニュースレターでは、為替管理、投資、税務、社会保険および労務について最近公布された政策・ガイダンスに関する最新情報をご案内致します。

経済協力開発機構(OECD)が発表しているPillar 2は、経済のデジタル化に伴う課税上の課題解決を目的とする包括的解決策で合意されている2つの柱のうちの1つです。Pillar 2(国際最低税率)では、国際的税率引き下げ競争の防止を目的として、国際的収入金額が75,000万ユーロ(87,000万米ドル相当)を超える大手多国籍企業に対して、法人税の最低税率を15%としています。

包括的枠組みでは、多国籍企業の、事業活動を行う場所における国際最低税額納付を確保するため、Pillar 2を実施すべく、140を超える国地域が協力しています。包括的枠組みの合意国であるベトナムは、ベトナムの現行税制規定をOECDPillar 2に適応させる努力をしています。更に、ベトナム政府は、Pillar 2によるベトナム経済への悪影響を軽減するために、その影響を分析・評価し、各種制度の見直し、現行の条約、税制および優遇措置の改正を検討しています。

財政省は、20237月に、グローバル税源浸食防止(GloBE)規定に基づく追加法人所得税の適用に関する決議草案を政府へ提出しています。決議草案では、ベトナムの課税権を守るため、適格国内ミニマム課税(QDMTT- Qualified Domestic Top-up Tax)および最低所得合算ルール(IIR – Income Inclusion Rule)の2つの規定を提案しています。適格国内ミニマム課税は、ベトナムで活動する外国投資家、具体的には、Pillar 2の対象となる多国籍企業グループのメンバー会社が、15%を下回る税率で課税されている場合に追加法人所得税を徴収することを目的としています。最低所得合算ルールの規定によれば、ベトナムに所在する最終親会社、または、中間親会社、または、被部分保有親会社が、実効税率が15%を下回る国・地域に所在するメンバー会社を保有する場合、その利益に対して適用される「追加法人所得税」を納付する義務が生じます。決議草案は、現在、政府が検討中ですが、20241月の施行が見込まれています。

一方で、2023814日、ハイテク分野への投資支援政策の試験的適用実施に関する国会決議に関して各省、関連当局機関からの意見を求めるOfficial Letter 6572/BKHDT-DTNNが計画投資省から公布されました。この決議草案が実施されれば、ベトナムでハイテク分野の活動を行う企業の発展を強力に支援することになります。

この草案では、以下の4種類の企業を対象として、投資奨励戦略の試験的実施が提案されています。

(i)               ハイテク製品製造分野での12VND超の資本規模、または、20VND超の年間売上の投資プロジェクトを持つ企業。

(ii)              12VND超の資本規模、または、20VND超の年間売上の投資プロジェクトを持つハイテク企業。

(iii)            12VND超の資本規模、または、20VND超の年間売上のハイテク応用プロジェクトを持つ企業。

(iv)            3VND超の資本規模の研究開発センタープロジェクトに投資する企業。

これは、ハイテク法令で規定されている対象であり、外国投資の招致方針にも、ベトナムが長期的な発展戦略を立てている分野にも合致しています。同時に、税務優遇の拡散を防ぎ、国家予算への影響も最小限に止めることができます。

決議草案では、その影響を評価するために、以下の4つの形態の投資支援が選択されています。(i) 固定資産および社会インフラシステムへの投資コストに基づく支援、(ii) 優先製品の製造コストに関わる支援、(iii) 人材教育および育成費用への支援、(iv) 研究開発(R&D)費用への支援の4つです。このうち、最初の2つについては、ベトナムではまだ何ら法令が公布されていません。

経済協力開発機構(OECD)は、Pillar 2の規定で、実質ベース所得控除("SBIE" – Substance based income exclusion)という概念を持ち出しています。SBIEの目的は、実質的経済活動を行う国・地域での多国籍企業グループによる適正かつ公平な税額負担の確保です。従って、決議草案で提案されている製造コスト、有形固定資産への投資コスト、そして、人材育成費用を支援する制度も、上記の通り実質的投資を奨励するOECDの精神に沿ったものと言えます。

支援は、現金による支援金、または、控除しきれなかった残りの額を現金または現金同等物で還付する税額控除制度である適格給付付き税額控除の形態で提案されています。プロジェクト全期間に対する税率15%の適用、新たな損金項目、その他優遇税制(付加価値税や個人所得税の減税)などの形態も検討されましたが、建議内容には含まれませんでした。Pillar 2が適用されることを考慮すると、これらの形態は、ベトナムで優遇税制を享受している企業の財務計画に対する直接的影響を踏まえるとあまり効果が期待できないか、損金額が増加しても追加法人所得税額が増えてしまうため効果が無いか、国際最低税率制度に基づく追加法人所得税の財務的影響に比べてあまり良い効果が期待できないからです。決議は、近々に国会の承認を得て、202411日から施行される見込みです。

Pillar 2の実施はまだ初期段階ですが、多国籍企業グループやそのメンバー会社にとっては、変更事項に対応する具体的な計画立案と対応実施が重要になります。早めに対応することによって、新しい規定、新しい法令順守規定、変更すべき社内制度などの実施に関わる自社への影響を分析する時間の余裕ができます。Pillar 2の規定は非常に複雑ですので、各種法令規定を遵守するためには専門家のアドバイスを得ることをお勧め致します。

Pillar 2による御社への影響の分析に関してアドバイスを希望される場合は、ご遠慮なく弊社へお問い合わせ下さい。